「橘商店」担当の姉崎です。
2022年に完成したこのプロジェクトですが、
”建築と社会の関係を視覚化する”メディア architecturephotoさんにご掲載いただきました。
architecturephoto 掲載ページ
あっという間に完成後3年が経ちましたが、この機会に当時考えたことや工事のことなどをまとめてみようと思います。
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1910年に創業された橘商店さんは「名栗(なぐり)」と呼ばれる栗材を加工した装飾部材を専門とした材木店です。
”名栗とは、角材や板に「突き鑿」や「ちょうな」、「与岐」などで独特の削り痕を残す日本古来からの加工技術の事を指す。
古くから日本建築において門扉等の門材や垣、濡縁、腰板などに使われ、特に数寄屋建築においては欠かせない存在であり、
また洋式の建物においても古くからルーバーや棟木、廻縁、階段格子などにも取り入れられていた。
そして現在では店舗内装にも注目が集まっている。”
(橘商店 ウェブサイトより)

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改装前は長年の業務によってたくさんの物たちが積み重なった状態で、
机のレイアウト・書類や資材の置き場・掲示場所などの整理が必要だと感じました。


解体後。左半分が事務所のあったスペースです。右側は物置スペースとなっていました。

構成はシンプルで、長尺材を出し入れできるまっすぐな通路を挟み、
左側に元とほぼ同じ広さの事務所、右側にミーティングスペースとトイレを計画しました。


【事務所スペース】
デスクカウンターと上部の棚、天井のライン照明、ガラスの欄間などの水平ラインをメインに構成し、
天井は栗の乱幅板に見切を入れて板をずらして張ることで空間にリズム感をもたらしています。
造り付けのデスクカウンター天板はファニチャーリノリウム。
柔らかくしっとりとした触り心地で、最近はテーブルなどの天板で見かけることも増えてきました。
亜麻仁油を主原料とした天然素材で、24時間後にウィルスが不活化する抗ウィルス効果も認められています。
正面には大容量の扉付き書類棚を配置して、書類の置き場所を整理しています。
引違いの書棚扉には黒谷和紙を貼っていただきました。

伝票などを一箇所にまとめて貼っておけるよう、廊下側の壁は一面に鉄板を貼って磁石で掲示できるようにしています。
鉄板の上は欄間をガラスにして抜けをつくりました。
窓とデスクが近いため、コールドドラフトを防ぐために木製の内窓を設けています。
向かいにはマンションが建っていますが、内窓に中空構造のポリカボネート板を使うことで目隠しと断熱を兼ねています。

天井からは橘商店さんのシグネチャーである六角名栗を吊って棚受けにし、垂直方向のポイントとなる要素としています。
入口の扉ももちろん栗材。福嶋建具店さんに製作していただきました。
橘商店さんのご提案で、引手には希少な黒柿材を使っています。



【ミーティングスペース】
右側の型板ガラスの窓を開けると、眼の前に木津川大橋が見えます。
透明ガラスに入れ替えて、この景色をぜひ活かそう!となりました。

木津川大橋を通る電車の音が大きく会話しづらい環境だったため、壁に遮音シートとグラスウールを入れ、
さらに木製の2重窓を設置することで騒音を抑えています。
アルミサッシと木製窓の間にはブラインドを入れて西日対策もしています。



モニターを設置している壁はツキノミ矢型の名栗。
それ以外の壁は、栗材のショールーム的な場所でもあることから栗材を引き立たせる背景として和紙を提案し、
ハタノワタルさんに黒谷和紙を貼っていただきました。
天井は栗の長尺板で、継目のない1枚板を乱幅で張っています。


ペンダントライトはNEW LIGHT POTTERYのシェードに栗材を取り付けたカスタム仕様で、
シェードは取り替えることもできるようになっています。
作業場側の壁には小さな窓を設け、打ち合わせをしながらも名栗の工程を感じられるようにしています。
作る場と見せる場が隣接していることの相乗効果が生まれてくれたら、と思っています。

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以前にも増して全国から設計者や工務店の方が訪れる場になっているようですし、
この場所を使ったイベントも開催されるようになり、
名栗や木材を通してこの場所に人が集い出会うことで、新たな価値や需要が生まれています。

場所の価値を見つけて引き出し、その場所から新たな価値が生まれる。
その一助となれたことを嬉しく思います。
Anezaki