・設計事務所の役割、問題解決
・どのように、何を「デザイン」するのか
大阪市内にある開院35年を迎えた医院の大規模改修工事がこの春、始まります。
最初に問い合わせを頂いたのは約一年半前に遡ります。
ホームページをご覧いただき、木を豊富に使った温かみのある空間に共感して下さったとの事でした。
そしてご相談は
「先代から医院を受け継ぎ、既存の科に加え新しい科を創設するにあたり医院全体をリニューアルしたい」という内容でした。
ここまではよくあるお話かもしれませが、詳しく現状を確認していくと、難易度の高い項目がいくつか見えてきました。
01 医院の工事を得意とする設計、工事会社に何社か問い合わせ相談したが、うまく進まなかったこと。
02 現状の土地と建物が複数混在していて、役所との協議・法的な確認、申請の手続きがとても複雑なこと。
03 建替えなのか、増改築なのか、方針が定まっていないこと。そもそも、各科を今後どのように運営し、どのような機能が必要になるのか、まだ院内での議論が終わっていないこと。
おそらく01の、相談先がフェードアウトした理由は、02や03にあったのでしょう。「実際に業務に入る前提の条件が整っていないので、決まってから相談してください」というのが本音だったのではないかと想像しました。
医院としては02の法的な条件に関して、どういう工事が可能なのか、希望するものを作ることがどれくらい困難なのか、という、方向性をある程度はっきりさせないことには院内での議論も進みません。
そこで私たちはまず設計に入る前に、そうした条件の整理を行いました。
先生が新しい医院で実現したいことをヒアリングしながらソフト面ではコンセプトをまとめ、ハード面では既存の建物・土地を法的に可能な内容で最大限活用できる方法をコスト面も考慮しつつ検討し、また既存建物の問題点を整理していきました。
そして、それらの報告を受けて医院内でも議論を進めて頂きました。
こうした事前情報整理とも呼べる作業に、3ヵ月ほどを要しました。
その結果「新築や増築は行わず、既存の建物内のリニューアルだけでもご要望の機能が収められる」という結論に至りました。
その後、各フロアの使い方などゾーニングの打ち合わせから各部分の使い勝手の詳細検討へと設計が進み、一年かけてようやく新しい医院の全容が決まってきました。
この医院の例に限らず、私たちは、「デザインを考える」だけではなく、こうした前段階での情報整理に多くの時間を費やしています。そして、それら条件をベストな形で実現する方法こそが「デザイン」することなのだと考えています。目に見える色や形は、結果としてそれら問題解決をし、紡ぎだしたコンセプトに基づいて表したものに過ぎないとも言えます。
出来上がった医院が、患者さんや地域の人々に喜ばれ、受け入れられて初めて、この設計・デザインが成功したと言えるのでしょう。
工事の様子はまた随時アップしていきます。
⇒ 仮設計画(医院の大規模改修)
Koizumi